、あそこはどこでござんしたろうねえ」
「明神下の四つ角だったよ」女は低声《こごえ》につぶやいた。
「するとあの家は、湯島妻恋坂の上あたりかしら?」
里好が聞きとがめた。
「あの家たあどの家だね」
「いえね」女はあわてた。「その、ただ空家《あきや》でござんす」
「お前さん、何かえ」と里好は用事でも思いだしたように立ち上がって、「これから浅草《おくやま》へ帰る気かね。わしゃもう米櫃がからだから一まわりして友だちをいたぶ[#「いたぶ」に傍点]って来るが」
「いえ、あの、自家《うち》へ帰ってもつらいことばかしでござんすから、もしお差しつかえないようでしたら、しばらくお宅へ置いてくださるわけには参りませんでしょうかねえ」
ここを先途と送る秋波は、里好には通じない。先生さっぱりとしたものだ。
「かまわないとも。独身者《ひとりもの》ののん気な世帯だ。お前さんさえいたいなら、いつまででもいなさるがいい。だが待てよ、この節はばかに人別がきびしくてな、大家のほうへは何と届けておこう?」
「さあ――妹とでも」
「冗談じゃない。わしみたいな唐茄子《とうなす》に、そんなきれいな妹があってたまるもんか。が、ま
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