命の手にもてあそばれたことであろう。
 が、ここが当座のねぐらという気がする。
 袖すりあうも他生の縁、この人とならば膝をつき合わしていても安心だ。
 ――添われまいとて苦にせまいもの、命ありゃこそ花も咲く。
 どうせ恋しいお方と住めない以上は、広い浮世に宿がないのも同然、誰と暮らそうとおんなじことで、大事なものだけは大事にして、まあ、しばらくここに腰をすえましょう。
 井戸をのぞいて水鏡。
 気のせいか、一昼夜の心労にげっそり[#「げっそり」に傍点]痩せて見える。
 女はさびしくほほえんで空を見上げた。
 からりと晴れ渡った初夏の朝。
 松平|下総守《しもうさのかみ》様の高塀《たかべい》が三味線堀のさざなみに揺れて、夜露に翼を光らせたぬれ燕が、つうっ、ついと白い腹をひらめかせている。
 女が家へはいると、里好先生の心づくしの、貧しい朝飯が待っていた。
 こう差し向かいで猫板の上を突ついているのだが、里好師がすっかり解脱《げだつ》しているだけに、双方すこしも艶《つや》っぽい気は起こらない。
 それどころか、熱い御飯に情けを感じて、女はともすればほろり[#「ほろり」に傍点]と来そう。


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