にいどみかかると、たじたじ[#「たじたじ」に傍点]とさがって溝板《どぶいた》をはね返した。
 そのすきに、守人は走り出した。懲《こ》りずまに、人影が一団となって追って来る。
 しかし、それもだんだん遠のいたようなので、守人は駈けながら懐紙で刀をぬぐって鞘に納めて、それでも、大事を取って、雨を衝《つ》いて一散に急いだ。
 気がついてみる、ここは橋場の浄徳寺門前だ。
 道路《みち》に一すじ赤っぽい光を投げて、まだ一軒の煮売り屋が起きている。
 めし、有合せ肴《さかな》――野田屋と書いた油障子をあけた守人、
「許せよ」
 ずいとはいり込むと、客が一人、酒樽《さかだる》に腰を掛けて、老爺《おやじ》を相手に盛んに弁じ立てている。
「どうも今夜ってえ今夜こさあえれえ目にあったよ」
 これが例の御免安兵衛だ。野郎、こんなところに神輿《みこし》をすえて、だいぶきこしめしているとみえる。
「何がってお前、向島まで、いもしねえ人を尋ねて行ったんだ。辻善六なんて名はどこをきいてもありゃあしねえ。おかげでずぶ[#「ずぶ」に傍点]ぬれよ。ちっ、馬鹿を見たの何のって――」
 とそこへ、守人の侍姿が眼にはいったので
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