、安兵衛、恐縮して黙りこんだ。
 狭い土間、守人は気軽に、安とならんで腰をおろして、蒼白《あおじろ》くほほえんでいる。
 お愛想《あいそ》ぶりにちょっと行燈をかき立てて、注文の小皿《こざら》盛りと熱燗《あつかん》を守人の前へ置いてから、老爺はまた安へ向かって、
「向島はどこへ行きなすったい」
「六阿弥陀よ」
 と調子づいた安兵衛、
「ねえ旦那《だんな》」と今度は守人へ、「あっし[#「あっし」に傍点]ゃあどうしても旦那に聞いてもらいてえことがあるんだ。この雨の中をいってえどこへ行って来たとおぼしめす? 向島六阿弥陀! いや全くのはなしでさあ。まったくの話」
 くどいのは酔漢《よっぱらい》の癖。老爺ははらはら[#「はらはら」に傍点]している。
「そうか。それは気《き》の毒《どく》だったな」守人はくだけて出て、「貴様だいぶいける口と見える。まあ一杯やれ」
「へえ。ありがとうございます。どうも旦那を前にしていうのは気がさしやすが、お侍さんにしちゃさばけたお方で、お若えのにえれえ。見上げたもんだ」
「うむ。面白い奴だな。貴様|稼売《しょうばい》は何だ」
「何に見えやす?」
「当ててみいと申すか。
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