をつぐんだ。これは――うっかりできないぞ。
雨がしげくなった。
二人は黙って二、三間歩いた。
「貴殿はいずれの御藩かな。それとも御浪士か」
こうききながら、侍は、手にした提灯の灯を、それとなく何度も守人の袖へ向けて、定紋を読もうとしている。
どっこい!
そこらにぬかりはあるものか。
このとおりちゃあん[#「ちゃあん」に傍点]と無紋を着ている。
「水戸が彦根殿の首をほしがっておるそうじゃが、貴殿水戸ではあるまいな」
「――」
守人はひそかに刀の目釘《めくぎ》を湿した。
沈黙のうちにまた四、五間。
と、二、三歩前へ出た侍、いきなり守人の往く手に立ちはだかった。
「これ、篁守人、はっはっは、どうじゃ、驚いたか」
守人は立ちどまって静かに傘をすぼめている。
「おい、篁、何とかぬかせ」
侍が詰めよせた。守人はにっこりして、
「うん。そういう貴様は何者か。名をいえ」
「名乗りはできぬ。が、役目をいおう」
「うふふふ、役目はいわいでもわかっておる。捨て扶持《ぶち》をもらって幕府のために刺客を勤むる痩《やせ》浪人であろう! 拙者はいかにも篁守人、それと知ったらなぜ斬ってかからぬ?
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