現われた。要之助の美貌は同性の心を動かすより何より異性の美代子の心を動かしてしまった。
彼がN亭に来てから二、三日の中に、既に藤次郎は、美代子が要之助にちやほやするのを見なければならなかった。ただそれだけならば未だいい、美代子は今までの態度を全然変えてしまった。藤次郎は彼女からみむきもせられなくなって来たのである。
無論、彼は煩悶した。焦慮した。そしてその苦しみの中に在って彼は頼りにならぬものをひたすらに頼った。それは要之助が、まだ若くて初心《うぶ》だということと、彼が非常に真面目な青年だということだった。
藤次郎の頼みは忽《たちま》ち裏切られた。要之助がまだ若く、初心でまじめであることがなおいけなかった。生れてはじめて、都会の美人に惚れられた(と少くとも要之助と藤次郎は考えたが)要之助は、まもなく彼女の媚態に陥って、彼の方からも可なり積極的な態度に出はじめて来たのである。
斯うやって藤次郎にとっては、悩みの幾月かが過ぎた。勿論彼はあらゆる手段で美代子の気もちを自分の方にひっぱろうとした。けれどもそれは全然無駄骨だったのである。
けれど彼は自分の心もちと、かつて自分に対してと
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