っていた美代子の態度からおして、まさか彼等が完全に許し合っているとは信じなかった。又信じたくもなかった。然るにこの彼の考えを根柢から動かすようなことが最近に持ち上ったのである。
今から約一週間程前の或る夜半《よなか》だった。いつもは昼の労働にまったく疲れて――読書は近頃は到底やれるものではなかったが――死人のように熟睡する藤次郎は、其の夜、二時頃に突然の腹痛で眼がさめた。
彼は暫く半眠半醒の状態で床上に苦しんでいたが、はっきり眼がさめるとあわてて厠《かわや》にとびこんだ。斯ういう場合、誰でも比較的永く厠にいるものである。彼はようやく苦しみがおさまったのでまず一安心して出ようとした。
すると其の時二階から階段をそっと降りて来る足音がきこえて来た。そうして全く降り切ると彼のいる厠の側を人が通る音がして軈《やが》て彼のねている部屋の障子をしめる音がした。
此の時藤次郎ははじめて、さっき彼が眼をさました時、いつも傍に眠っている要之助が床の中にいなかったことを思いだした。
藤次郎が部屋に戻って寝どこに入ると、要之助はちゃんとそこに眠っている。藤次郎は稍々《やや》おさまった腹をなでながら
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