夢の殺人
浜野四郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)瓢箪池《ひょうたんいけ》

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)十二|燭《しょく》の電気

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから2字下げ]
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「どうしたって此の儘ではおけない。……いっそやっつけちまおうか」
 浅草公園の瓢箪池《ひょうたんいけ》の辺《ほとり》を歩きながら藤次郎は独り言を云った。然し之は胸の中《うち》のむしゃくしゃを思わず口に出しただけで、別段やっつけることをはっきり考えたわけではなかった。ただ要之助という男の存在のたとえなき呪わしさと、昨夜の出来事が嘔吐を催しそうに不快に、今更思い起されたのである。

 藤次郎が新宿のレストランN亭にコックとして住み込んだのは今から約一年程前だった。
 彼は二十三歳の今日まで、殆ど遊興の味を知らない。実際彼は斯ういう所に斯ういう勤めをしているには珍らしい青年である。彼の楽しみは読書だった。殊に学問か、それでなければ修養の本を、ひまさえあれば貪《むさぼ》り読んだ。
 レストランN亭のコック藤
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