店の手伝いとして、田舎からでて来たのだった。彼は真面目さに於いても、有望さに於いても殆ど藤次郎と匹敵した。然し其の容貌に於いて、藤次郎とは全く比較にならぬ程、優れていたのである。
 藤次郎は決して立派な顔の持ち主ではなかった。実をいうと、彼が美代子に対して恋を打ち明けるのに、一番ひけ目を感じていたのは自分の顔であった。どう贔屓目《ひいきめ》に見ても彼を美男とは云えない。非常な醜男《ぶおとこ》ではなかったけれど決して美しくはなかった。
 反之《これにはんし》、要之助は水準を正に抜けでた美青年である。濃い眉、高い、筋の通った、然しながら鋭くないなだらかな線を有《も》った恰好のよい鼻、それにそれ迄田舎の日の下にいたとは思われぬ其の皮膚の白さ、そして豊かな双頬、之等が寄って要之助の顔を形造っているのである。
 要之助は藤次郎よりは二つ年下だった。だから若し藤次郎が、要之助の美貌に対して、甚しく心を動かしたとしても少しも無理はないのだが、不幸にして事実はそういう方向に向っては発展しなかった。否、藤次郎は、此の美青年をはじめて見た時に既に或る不安を感じたのである。
 此の感じははたして事実となって
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