ッテ倒レマシタ。私ハソレデ直グ人々ヲ呼ンダノデアリマス」
 検事が果してこの言を信じるだろうか、無論信じないわけはない。あとは主人其の他が要之助の平素に就いて述べてくれるであろう。
 実に素ばらしい企てである、と藤次郎は考えた。そうして思わず微笑した。
 愈々《いよいよ》寝《しん》につく時が来た。藤次郎は予定通り短刀を要之助の目の前で戸棚にしまった。あとはもうねるばかりである。
 要之助は美しい横顔を見せてすぐに眠りにおちたらしい。藤次郎はつくづくと其の顔に見入った。自然が男性の肉体に与えた美しい巧みである。然し藤次郎には同性の美しさに好意をもつことは断じて出来なかった。彼は今更、要之助の顔を呪った。
 十二時半になり一時頃になった。時は正に真夜半《まよなか》頃になろうとしている。然しまだ何となくあたりが落ち付かぬようだ。
 藤次郎は、健康な肉体が必然に伴って来る烈しい睡魔と戦わねばならなかった。
 彼ははじめ余りに緊張したせいか、二時頃に至ってますます甚しくつかれはじめた。
 藤次郎はいつともなしにとろとろしかかった。
 と、彼は不思議な夢に襲われはじめた。
 要之助がいつの間にか立
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