助が左利でない事を知っている。之は全然眠っている所をやらないで、ゆすぶりおこして要之助がねぼけまなこでいる時の方が却ってうまく行くであろう。
 そうして要之助が握ったとき、機を失わず鉄の文鎮で一撃にそのみけん[#「みけん」に傍点]を割るのだ。
 勝負は一瞬の間だ。要之助は直ちに死ぬにきまっている。つづいて彼はいかにも争っているような悲鳴をあげる。要之助の死体の位置を適宜《てきぎ》の所におく。斯くて彼は完全に殺人を行う事が出来、所罰《しょばつ》を免るるを得るのだ。
 彼の申立は頗《すこぶ》る簡単に行く筈である。彼は係官に対し次の如くいうつもりである。
「私ハ夜中ニ何ダカ咽喉ニ冷《ひや》リトシタモノヲ感ジマシタ。ツヅイテ刺スヨウナ痛ミヲオボエマシタノデハット思ッテ目ヲ開クト要之助ガ悪鬼ノヨウナ相《そう》ヲシテ白イ光ルモノヲモッテ私ニ馬乗リニナッテイマス。部屋ニハ電気ガツイテ居マスカラハッキリワカリマス。私ハ次ノ瞬間ニ殺サレルト思イマシタ。身体ハ押エラレテ動ケマセヌ。勿論逃ゲルヒマハアリマセヌ。思ワズ右手ヲノバスト手ニ何カ堅イ物ガサワッタノデ夢中デ要之助ノ顔ヲナグリツケマスト彼ハ『アッ』ト云
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