がしてある。もとより出鱈目である。国の友人なるものを調べられればすぐばれる嘘である。然し彼は其の嘘を要之助一人にしか語ってない。要之助が殺されてしまえば、彼は調べられる時、何とでも外に出たらめの理由を云えば好いわけである。而して文鎮を求めた理由もそれと同様なのだ。
 二人が映画館で剣劇を見た事を立証する為に彼は二枚のプロを大切に持って帰って来た。而して彼等がたしかに其の夜映画館に居たことを出来るだけはっきり証拠立てる為に彼は数本の剣劇映画の場面とストーリーを十分におぼえて来た。更に、どの映画が何時に始まったか、どれが何時に終ったかという事まで時計を見て調べて来た。此の最後の小細工は実は甚だ拙劣である事を読者は直ちに理解せられるだろう。
 彼はねる時、わざと短刀を傍の戸棚に入れて戸を開け放しておくつもりである。勿論之は要之助に十分見ていられなければならぬ。
 深夜、恐らくは二時頃、彼は起きる。そうして、短刀を取り出す。次に自ら咽喉の辺を軽く二ケ所程切る。それから柄の所をすっかり拭いて、(之は勿論自分が最後の使用者なる事を見破られぬ為である)側にねて居る要之助の右手に握らせる。藤次郎は要之
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