理だ。若くは想像だ。全く俺の考えた通りの事を云っている。而も自信に満ちたあの態度! 全く俺はあの通りの計画をしてあの日あの場所まで行ったに違いない。しかし、自然のする皮肉を、われ等の頭の力で見通せると思うか、俺も誤って居た。しかし検事も俺同様の誤算をしていたのだ。
 俺が中条の身体めがけて車をぶつけようとした刹那だった。不意に中条の方がよろよろとして俺の車の方向にとび出して来たのだ。現在殺そうとしている相手だが、しかしこの刹那俺は全く狼狽した。俺は殆ど直覚的に避けようとしてハンドルを切った。けれども間に合わなかったんだ。中条の奴、良心の苛責に堪えかねたか、俺の車にとび込みやがったんだ。
 今となっては、誰も人の居なかったことが残念だ、俺は人殺しを計画した。だから検事にそう思われても仕方がないかも知れない。しかし今一歩という所でやりそこなった。相手に先んじられてしまったんだ。誰でも一人見ていてくれたら、彼のよろめき入ったことを立証してくれただろうに。
 昨日中条未亡人を訪問した。俺が中条を殺したと疑っているのは検事とこの女だ。あの女は、昨日はほとんど物を云わなかった。
 ああ、俺は大谷検
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