彼は誰を殺したか
浜尾四郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)従姉弟《いとこ》
|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)いつか又|出会《でっく》わす。
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから2字下げ]
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男でもほれぼれする吉田豊のやすらかな寝顔を眺めながら中条直一は思った。
「こんな美しい青年に妻が恋するのは無理はないことかも知れない。どう考えても俺は少し年をとりすぎている。ただ妻の従弟だと思ッて近頃まで安心していたのは俺の誤りだッた。明日はどうしてもあれを決行しよう」
中条はこんなことを思い耽りつつ、海辺の宿屋の小さい一室で、真夏の暑苦しい夜を一睡もせず明かしてしまった。
彼は十五も年の違う美しい妻の綾子の愛に対して妙に自信がもてなかった。だから大抵の男が綾子に会うのを警戒していた。近頃ではこれが判然として来たので、心ある友人は彼を馬鹿にしながらも訪ねるのを遠慮するようになった。ただ今年大学にはいったばかりの綾子の従弟の吉田豊ばかりは平気でやって来て綾子と親しく話していた。又中条の方で
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