も何らの不安もなかった。それはただ従姉弟《いとこ》同志だから、という理由からであった。
 その吉田の最近の行動は、中条から云えばどうも許し難かった。従姉弟のことだ、自分との結婚以前にはどんなに親しかったか知れない。然し結婚後にもその親しさを延長されてはたまらないというのが、彼の気持だった。
 実は、結婚後ますます親しく仲よくなって来たのじゃないかとさえ感ぜられる。
 彼等を近づかせて居るものは表向きは音楽だった。ピアノのすきな綾子の所へ、ヴァイオリンが巧みな吉田がやって来て、この二つの楽器を合わせて楽しむことは当然のことだった、少くとも綾子と吉田にはそう思われた。
 しかし、中条にとっては、夫が全く除外されているという時の状態は堪らなく不愉快だったのである。
 吉田には兎も角、綾子にはこの夫の不快が判らない筈はなかった。けれども、綾子はそんなことを何とも思わなかった。こんなことを不快に思っている夫をもつことを恥とすら考えた。だからますます平気で吉田をよんでは合奏した。彼女は賢かった。成程中条は弱気な哀れな夫だったかも知れない。しかし彼女は火と戯れていることに気がつかなかった。こういう性
前へ 次へ
全28ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
浜尾 四郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング