し某紳士が真犯人とすれば、子爵が殺した相手の兄だと知って居る彼にとって、毎朝偶然子爵に会うと云うことはたしかに一種の恐怖であり従って神経の弱って居るその男の態度に必ず変った所が見い出されるに違いない。そこで約半年子爵と某紳士とは摺れ違って居たとする。すると何日頃からか知らないけれども子爵はさっき云った妙な事実に気が付きはじめた、即ちある一定の時間に全く往来が途絶えるという事実。この事実が素晴しい手段を思い付かせたに相違ありません。
之からこの子爵が、犯人としてどの位頭がいいかを説明しましょう。先に云った理由によって子爵が行おうとする殺人のモーティヴは決して暴露する危険はない。その点に就いて心配する必要は毫もない筈です。子爵はつまらない小細工は一切しないことにする。わざと白昼、頗《すこぶ》る自然らしく殺人を行おうというのです。ただ誰からも見て居られないということが絶対に必要です。然り、ただその一点だけが此の殺人事件に於いて必要だったのだから恐ろしいじゃありませんか。而も某紳士が海岸で用いた手も誰からも見られぬという点だけが大切だったのです。之に対する復讐としては蓋《けだ》し甚だ適切だっ
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