由か一寸判らないが、あの事件のあった個所は、日曜日の朝は別ですが、他の朝はある一定の時間――無論極く短い間ですが人通りが全く一時に途絶えるという事実、而もそれが丁度伯爵あなたがあの日あそこを通られた時間だ、という事実が判って来ました。伯爵、半年も同じ道をドライヴ[#「ドライヴ」は底本では「デライヴ」と誤植]して居たこの物語の子爵某氏にそれが発見されぬ筈はありません。
 扠、ここまで来て私はこの小説の中の子爵の考えを始めから辿って見ましょう。まず弟が殺されたと思う。ひそかに注意して見ると弟の仇たる某紳士が神経衰弱に罹って役所を休んでしまう。無論子爵は之を良心の苛責と信じるからその確信はますます堅くなる。そこで愈《いよいよ》復讐の決心をする。偶然或る日、日比谷公園のドライヴ中某紳士を発見する。いつか又|出会《でっく》わす。之を知った子爵は某紳士の通る時間をはかって自動車を駈って摺れちがう。之から毎朝時間をいままでより早目に出る事にする。そうして半年の間二人は毎日のようにすれ違って居たわけです。之は子爵にとって二つの意味で重大であった筈です。一つは無論『仇の様子』を探る為です。他の意味は、も
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