、第一の殺人事件と同じわけです。
 扠、ここで仮りにこの兄なる人の位置を定めて見ましょう。仮りに之が子爵某という人だとします。即ち社会的に相当地位ある人間だとしましょう。少くとも殺人事件の如きには最も嫌疑のかかりそうもない地位に居るのです。即ち云いかえれば、最も巧みに人殺しの出来る地位に居るとしましょう。此の子爵は、弟が殺されたと信じて以来、どうにかして相手をやっつけようと考えて居る。絶えず遠くからその行動を注意していると、相手は神経衰弱にかかって役目をひいてしまうと判る。ところで子爵は、毎朝自動車を自ら駈って日比谷公園を通るのです。偶然にも或る朝、子爵は相手がここを通るのを見ました。時々、一方は徒歩、一方は車で公園のあたりで摺れ違う。そのうち子爵は相手の時間が一定しているのに気付きます。健康上いいからという理由で時間をくり上げて相手と必ず会うようにしはじめました。
 ところで伯爵、あなたの事件で、私はその小説家に云われてから気が付いたのですがね。日比谷公園ともあろう所で、あの時分どうして誰も他に人が居なかったかということを調べて見たのです。すると妙なことを発見したんですよ。どういう理
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