しい途方もない空想を語りはじめたのです。之からあなたに申し上げるのは、私よりむしろその男の考えを多くいうのですから一つ小説のつもりできいてごらんなさい。
 その男の云うのは、まず海で青年が死んだ事件を殺人事件だと考えるのです。少くもその時死んだ人間の親とか兄とか、要するに最も近い人には殺人事件だと信ぜられたと仮定するのです。動機は無論外には表われては居らぬけれども殺された青年の側に居る者、例えば兄などには必ず推測がつくでしょう。その小説家は此の二つの事実に対して兄が『弟は殺された』と確信したと、推測することが最も自然だというのです。もし仮りに兄が、そう信じたら彼は一体どうするでしょう。今云った通り、法律的には之をどうすることも出来ない。訴えたとて何にもならぬ。結局残る所は直接の復讐手段でしょう、そして彼の兄なる人が馬鹿でない限り、自分も法律的には何等の危険のない方法をとるでしょう。伯爵、実際この場合、彼は最も賢明な方法をとったのです。はじめの事件が殺人事件だとされていない限り、之に対する復讐も亦、動機が一般には判らないわけです。即ち二度目の殺人は動機が全然外部に表われていない点に於いて
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