らね。人間ですもの、内にどんなことを考えて居るか判るものではありませんよ。
ところでもし此の場合、動機が表われたとしたらどうでしょう。殺人として検事は起訴出来るでしょうか。つまりそこですよ。丁度あなたの事件のように、第三者が全くない。被疑者のいうことをくつがえす証拠がない。従っていくら検事でもどうすることも出来ますまい。とすると、この方法は殺人として最も巧妙な方法だと云うことになります。
扠《さて》、ここにある夏、二人の男が海に行った。そしてその一人が崖から落ちて死んだのです。すると丁度一年程たってから、その時のつれの男が、ある過失か自殺で、自動車に衝突しました。ところがその時その自動車を運転していた男はさきに死んだ人の兄だったという事実がここにあると仮定します。そう、これは一ツの仮説の例ですよ。
この二つの事件を偶然であり得ないとは云えますまい。しかしこの事実の間に、ある連絡をとって考えられぬことはありません。
伯爵。私と同じ役人をしていた男で、今探偵小説作家になってる人があります。このあいだ一寸会った時に、私はこういう二つの事件を彼に語って見ました。するとその男は、小説家ら
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