期した通り、考えた筋書通りに!」
 細山伯爵はこの時ふりかえって大谷検事のすごい皮肉な微笑を見なければならなかった。
「細山さん、事件は之ですんだのです。然し私は検事としてでなく、個人としてあなたと少しお話したいのですがね」
 伯爵は思わず、もとの椅子に腰を下さなければならなかった。
「伯爵、之は私が個人として云うことですよ。検事としていうべきことは終りました。だからもはや安心なさってよろしい。ただ私大谷一個人としてお話したいことがあるのです。
 私は自分の職業の立場から常に犯罪ということに興味をもって居ます。如何にして犯罪を捜査するかということは云わば如何にして犯罪を行うかという事を考えることです。だから私は事件を調べることに趣味があるばかりでなく、もし私が犯人だったらどうするか。又はどうしたかというようなことをいつも考えるのです。
 あなたは、よく、山や海で二人づれの一人が不慮の死をとげた際に、一回もこれを疑ったことはありませんか。私は自分が検事だからというせいか、いつもあれは妙に思うのです。成程殺人としては動機がない。しかし動機がないということはただ外に表われないというだけですか
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