ませんでした」
「そうですか、いやそれならそれでよろしい」
対話は極めて円滑に進捗《しんちょく》した。凡てに渉って三時間たてつづけに調べられたが、ようやく一通りのことは終ったと思う頃、伯爵がきいた。
「いかがでしょう、私は許されましょうか。私の考えでは自分には過失はないように思いますが」
「私としては今は何も云う必要はないと思いますが、一応あなたの御身分に対して好意的に申しましょう。問題は、あなたの云う通りだとして、果して法律上過失があるかないかということなんですよ。あなたのいうことがほんとかどうか不幸にして立証すべき何物もない。死人に口なしで相手は死んで居る。又第三者で見た者が一人もないのです。従って少くもあなたの云われることを嘘だと立証すべき事実がないのです。そこであなたの今までの供述に従えば御安心なさい、この事件は不起訴になります。私はこの事件を不起訴にすることにきめました」
「ありがとうございました。これで私も安心致しました」
伯爵がよろこんでドアをあけて出ようとする時だった。不意に後から声がきこえた。
「細山さん、しかしそれはあなたの計画通りに進んだわけじゃないですか、予
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