たと云うべきでありましょう。
子爵の用いた武器、即ちこの場合兇器は? 之こそ子爵の頭のよさを示すものです。彼は自分の乗っている自動車を相手にぶっつけようというのです。白昼、日比谷公園の中で、あの時に而も人の恐れる検事局の前で、パッカードで人を殺す! 何というモダーンな、而も頭のよい犯罪でしょう。
現今われわれ法律家から云えば自動車位殺人の兇器にたやすく[#「たやすく」に傍点]利用され得るものは他にないのです。たやすくとは安全に[#「安全に」に傍点]の意味ですよ。今云ったもとの同僚の探偵小説作家などは役人だった時分からこれを主張して居ました。『探偵小説作家が殺人方法として自動車を兇器に用いるのが一番現代に適切だろう。犯人にとって法律的にこの位安心なものはないのだから。それ程、現今の交通状態と法律とはかけはなれている。僕だってそれを書かせれば書くんだがほんとうにまねをする奴が出るといけないからまだ書かないんだ』とは最近彼が、私に洩した感想です。
子爵の考えも正にそこだったのです。これは子爵が相当な法律家だということを表わしています。自動車の事件は誰も見ていない限り、相手を殺してしまえ
前へ
次へ
全28ページ中18ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
浜尾 四郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング