傍点]にさわったようにも思った。
この蛇と蜘蛛となめくじ[#「なめくじ」に傍点]の混血児のような感じのする男が、私の後方に五尺位を隔てて腰かけて居る、という感じは決していいものではない。この気もちは只想像して貰うより外ない。
私が、どうしても本に身を入れる事が出来なかったのは、そういう次第なのである。
私は、今にも肩越しになめくじのような手が出て来はしまいか、蛇のような首が出て来はしまいか、蜘蛛の足がまきついて来はしまいかと、びくびくして居た。
汽車が三島を発した時、とうとう此の蛇ははっきり私の目の前に首を出してしまったのである。
二
汽車が三島駅を発すると間もなく、後から急に、
「もしもし」
という声がしたので、私はとうとう来たなとびくっとした。
私は、それ迄その男がどんなに腰かけ、どんな風にしていたかは少しも見ないようにして居た。
現に(これは甚だ尾籠な事で恐縮だが)箱根を過ぎた時、尿意を催したのだが、この車の便所に行くには、どうしても彼の前を通らねばならないので、私はそれを避けてわざわざ後方の車の便所に行った位なのである。
だから、彼が今
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