途上の犯人
浜尾四郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)焦《いらだた》しさ
|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)その後御結婚|被遊《あそばされ》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)更に又なめくじ[#「なめくじ」に傍点]に
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一
東京駅で乗車した時から、私はその男の様子が気になり出した。思いなしではなく、確かにその男の方でもじろじろと私の方にばかり注意して居る。
色の青白い、三十四、五の痩せた男である。身なりは大して賤しい方ではない。さっぱりした背広を着し、ソフトを戴いて居るのだが、帽子は乗り込むとすぐ棚の上においたようだった。外套は特に取り立てていうような物でない。
私はこの男を確かにどこかで見た事がある。向こうでもこっちを知って居るらしい。彼は私の席と反対側の一つ向こうの席に腰かけて居るのだが、余り混雑して居ない三等車の中で、こういう視線の戦いをつづけて行くのは決して愉快な事ではなかった。
向こうはどこまで行くのかわからないが、私は今夜T市迄行かなければならない。そ
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