て然らば、君は僕に感謝をしていい筈じゃないか。君の子はもう二ヶ月半も前に骨になっている。今更誰も疑うものはない。何故それならば君はさっきから、僕を批難するのだろう」
 彼はこの時、急に又凄い目付をした。そうして、苦しそうに頭の毛を自分でつかみながら、唸るような声をあげた。
 私は誰か怪しみはしないかと、驚いてあたりを見廻したが、誰も幸いに気がつく者はなかったようである。
「それだ! それなんだ。私があなたを恨むのは! あなたは犯罪の方法を教えた。殺人をはっきり教えた。しかし、良心を捨てる事を教えなかったじゃないか。……ああ、人殺しのあとの生活、私はたまらないんだ。苦しいんだ。良心をすてなけりゃ生きては行かれない。おまけに、あんなに完全にやったにも不拘《かかわらず》、私は毎日刑事に追いかけられているような気がしてるんだ。ひろ子の、あの小さなひろ子の手が土の中から出て、私をさしているような気がするんだ。どうしてこの気もちを捨てる方法をおしえないんです。え? あなたは、あなたの為にこんなに苦しんでいる人間を見殺しにするのですか?」
 相川はこういいながら、突然私の右手をつかんだ。
 生来余り
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