はこうやって完全に殺人を行いました。しかもこの世の中に、一人だって私を疑っているものはありません。私はあなたからおそわった通りに行いました。人を殺した! しかし罰せられぬ! です」
相川俊夫と自称する男は、こう云ってにやにやと薄気味わるい笑いを洩らした。私は彼の話をきいて居るうちにその中に、或る真実さを認めた。しかし同時に余りに凡てが巧妙すぎることも感じた。もし彼がいう通りの犯人とすれば、実に容易ならぬ事件である。
私は、今まで、彼が娘を殺したような殺人方法をどの小説でも書いた事はない。彼自身も又自ら、直接のヒントは流行性感冒から得たと称している。けれど彼のいう所に従えば、その遠因は私のつまらぬ小説にあるらしい。
私は、彼の話の真実性と、正気の程度を試みる為に、強いて冷静を装ってこうきいて見た。
「成程、恐ろしい話だ。君の話は物凄い。君が自ら犯罪を語る以上、僕は疑う事はこの際避けよう。けれどただ一つ承りたい点がある。君は要するに、犯罪の目的に成功しているのではないか。妻との間の障害物はなくなったのではないか。しかも世界の誰一人だって、君を疑っていない事は君自身も云っている。果たし
前へ
次へ
全39ページ中27ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
浜尾 四郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング