そうですか。それはほんとですか。……では何時《いつ》何処《どこ》で、君が誰を殺したか、順序をたてて話してごらんなさい」
 私は彼がしゃべる事が必ずノンセンスだろうと思ったのである。精神病の医者でない私には、こうやったなら相手のいう話に必ず辻褄の合わぬ妙な事が出来て来ると思ったのだ。医者でない悲しさに、この際、これ以外にこんな気狂いを取り扱う方法を私は全く知らなかったのである。
「先生、きいてくれますか…………では一通りお話ししましょう」
 相川はかく前おきをして語りはじめた。
 私は念の為、周囲を見廻したがまわりは不相変すいて居る上彼の声は列車の走る音に消されて、私以外には決してきかれる恐れはなかった。
 なお先に一言つけ加えておけば、私は彼の話をきいているうちに、彼が悲しい事には(!)決して気狂いでない事を知ったのである。

          三

「初めにはっきり申しておきます。私は今から二ヶ月半ばかり前、即ちこの二月の初旬、僅か二歳になったばかりの私の娘をこの手で殺してしまったのです。これは全く間違いのない事実です。
 何故、私が我が子を殺したか? 憎くてならなかったからです。
前へ 次へ
全39ページ中17ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
浜尾 四郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング