られぬとすれば、先生は法律家たるの資格がない。法律家たる以上、それだけの覚悟がなければならん筈だ」
 この語気でも察せられるように、蛇男の勢いは非常に鋭くなり、しかも、その論旨も実を云うと、中々しっかりしたものなのである。
 私は、元来、議論にかけては可なりアグレシヴな態度をとる人間なのだが、一つにはこの相手の論理が可なり正しいのと、もう一つには例の妖気が、なんとなく気味が悪いので、巧みにその鋭鋒《えいほう》をさけようと試みた。
「確かにあなたの云われる事は真理です。しかし僕が探偵小説を書く時は、決して法律家として書いて居るのではないのですからね。その点は十分考えて頂かんと困ると思うのだが」
「探偵小説の筆を取る時は小説家、弁護士として金を取る時は法律家だ、とこう云われるのでしょう。成程、一応それでいいようには聞えます。しかしそれは胡魔化しだ。欺瞞だ! 先生はごまかそうとしているのです」
 彼の態度はますます猛烈で、その論旨はいよいよ急である。私は実は彼の頭が割にいいのに驚いたのである。
「先生は小説家だという。しかし如何なる場合でも先生が社会の一分子たる事は争いがない。あなたがなんと
前へ 次へ
全39ページ中11ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
浜尾 四郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング