十分の覚悟はしてあるだろうね」
この一言にはさすが星田は愕然《がくぜん》としたらしく検事を見上げた。
「正岡君は平生《へいぜい》君を知っていたらしいのでまず君の名が星田代二であると信じている。けれど、まず僕はそれから取調べてかからなければならない。今書記がもって出た前科調書の裏に君の指紋がとってある。けれども、正岡君は、君に前科のないものと信じていたかもしれない。それで前科なしと記してある。ところが、本庁でうまくそう云ってぬけて来た者が検事局で、怪しまれて前科のばれた例、本名のばれた例がいくらもあるぜ。実は今、あの指紋をもって本省に行かせたのさ、十分か十五分の間にもう一度あれを調べてもって来る。前科の欄と、姓名の欄がかわって来ないことを君の為に祈る」
二木検事はこう云って穴のあく程星田代二の顔をにらみつけた。
しかし星田代二はやはり石のようになったまま一言も発しない。
「そこで君は今日は勿論帰宅出来ぬものと考えなければならぬ。物的証拠は全部君に不利だ。しかし、まだ被害者が如何にして殺されたか。如何なる方法で、何故《なにゆえ》に? 之《これ》らが実はまだ確定出来ていない。今日は之か
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