ずや君を一応は疑ってもきっと他の人物を探し出すだろうとね」
「――――」
「ところがもう一つの考えがあり得ることに君は気がついているかね。即ち以上云った理由により、君位の頭の持主ならば、真犯人自身がわざわざ故意に自身に不利な証拠を残しておいて最後にうまくずらかるという手だ。即ち逆手戦法だけれども一寸君らの考えそうな話だね。――約言《やくげん》しようか。僕は今度の事件の証拠によって一応君を疑っている。然し君の考え方に従って又他を捜査する考えをもった。けれど、第三段に於て再び、君を疑わざるを得ない。正岡君は第一段の理由によって君を犯人と思惟しているらしい。勿論第二段の考え方で君が犯人でないという説を立てている刑事もある。しかしこの二木は第三段の考えに行く。君は自らあんな証拠を残して来た、ということだ。――僕は君のいう凡《すべ》てがうそだとは云わない。成程へんな目つきの男もいたろう。怪しい洋装の女もいるだろう。けれど不幸にしてこれらの存在は君の無罪の証拠にはなり得ないのだ」
 星田代二はもはや何をいうも無用というように石の如く沈黙している。
「星田代二君、いや星田代二と称する男たる君、もはや
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