ら君を取調べた上で、君には一晩もう一度本庁であかしてもらう。そしてあすから君は十日間市ヶ谷刑務所でくらさなければならぬ」
「え? 市ヶ谷?」
「うん。之は念の為に云っておくが起訴前の強制処分で、刑事訴訟法第二百五十五条によるのだ。この勾留は十日以内に検事が事件を起訴するか、不起訴とするかに決定しなければならないのだ。これは同法第二百五十七条第一項に定めてある。いいか、君、勝負はこの十日間だよ。十日のきれ目に僕は君を起訴するかも知れん。しかし或は不起訴として君を釈放するかもしれない。天下の分け目だ」
 丁度この時ドアをノックする音がきこえてついで、さっき出て行った書記が手に書類をもちながら戻って来た。
 落着きをよそうようにして検事は書類を手にとった。彼は最後についている前科調書の所をいきなりあけたが、何ともつかぬ一種の驚愕《きょうがく》の表情を示して星田を見なおした。
 はたして星田代二は、本名だったろうか。
 而して彼は何の前科ももたなかったか?



底本:「「探偵クラブ」傑作選 幻の探偵雑誌8」光文社文庫、光文社
   2001(平成13)年12月20日初版1刷発行
初出:「探偵
前へ 次へ
全7ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
浜尾 四郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング