イズがいないよ。ローネルさんの所へ行って見ておいで。ごはんの後であそこに行っていたからまだ行ってると見えるよ」
 デュー夫人はこう云ってそばにいた長女をしてルイズを探しにやった。が、ルイズはローネル夫人の所にはいないし、ローネル夫人は朝からうちにはいないという報告をもたらして戻って来た。
「では、メネルーさんの所だよきっと。私が行って見て来よう」
 デュー夫人は、同じ家の四階に住んでいるメネルーの所をたずねたのである。
 メネルーという夫婦は相当年もとっていて夫は役所に勤め、妻は煙草工場で働いて居り、デュー夫婦とも可なり懇意で、殊にルイズを大へんかわいがってよく菓子などをくれたりするので、ルイズの方でもよくなついていたのである。
 この夫婦の間に、ルイという廿歳になる男子があったが、この青年は親と全くちがった性質の男だった。三年程、汽船にボーイとして働いていたが、後、パリに戻ってからは、全くなまけものとなり、毎日毎日無為にくらし、両親の住んでいる室の上(即ち五階)に一室を占領していつもここにふらふらしていたのであった。
 デュー夫人はまず四階のメネルー夫妻の室の戸を叩いたが返事がない。
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