まだどっちも戻らないらしいので、彼女は一階上って、ルイ・メネルーの戸を叩いた。
 デュー夫人が娘の事をきくと、中から戸をあけたばかりのルイ・メネルーは落付いた声で、
「ルイズさんは今日は一度もここへは見えませんよ」
 と答えた。
 そこでデュー夫人は同じフローアの戸を片端からノックしてまわったが一軒も人が帰ってはいなかった。手を空《むなし》うしてこの母は下まで降りて改めて門番の所へ行って見ると此の日は門番の娘が母親の代りに勤めていたが、終日ルイズの姿を見なかったという答をしたのである。
 心配になって来たデュー夫人はそれから、リュー・ド・グルネルの家を戸毎に訪ねて廻ったけれどもルイズのようすは全くわからなかった。そこで彼女はとうとう警察に捜索を依頼して稍《やや》安心して帰った。というのは、巴里《パリ》で迷児になる者は一日に何人あるか判らないけれど二三時間も経てば必ず警察の手で発見されるのが例であったから。
 警察は、彼女に、午後八時に再び出頭するようにと命じて帰宅させた。
 午後八時にデュー夫人は命令通り再び警察に出頭したがその時、門番だの其他の人々が、メネルーの息子は平生子供らに「お
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