実が行われた。
「一八九七年八月七日午前九時頃、プランシェという人妻がレペリエという森の所を通りかかると、突然物かげから鳥打帽をかぶり手に鉄の棒をもった男がおどり出し、いきなりプランシェの咽喉をつかんで引仆《ひきたお》した。
 彼女は死物狂でようやく此の男の手から逃れたが、丁度その時現場にいたプランシェ夫人の七歳と四歳になる児が驚いて悲鳴をあげながら近くに働いていた父親のところにかけつけた。ムシュウ・プランシェはその男の気のつかない所で前から働いていたのだ。
 プランシェ夫人も必死になって夫の方に逃走するとその男――ヴァッヘル――もあとから追いかけて来、とうとうムシュウ・プランシェとまともに向い合った。おそろしい格闘が二人の間に行われたが、その間に、フェルナンドという七歳になる児は勇敢にも石を取ってヴァッヘルに向い父の加勢をはじめた。
 一時はヴァッヘルの力強く、戦はどうなるかと見えたが、幸にもその近くにいた樵夫《きこり》が二三名かけつけ、とうとうその男を取押える事が出来たのである」
 彼はそれからツールノンの獄に送られ、そこのマヂストレートに調べられたが、単なる傷害罪という名のもとに
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