結果は惨忍さに於いて到底彼の自白の如きものではない事が明かになった。
 頸のまわりには絞められた痕跡があったが胸部に十一センチの深さの切創があり、心臓は突刺されていた。
 事実は、彼はまずマルテに暴行を加え、次に之を絞め殺し、後、胸を突刺したのであった。
 取調中、彼は夢中でやった犯行であると強硬に主張した。そうして暴行の点については全くおぼえがないという申立をやった。
 暴行事件がここではからずももう一つあかるみに持出されたのである。
 一九〇一年三月、彼は、ジェリヤ・ブルマールという二十二歳になる婦人を襲った事がある。
 彼はその日彼女を自分の室にさそいこみ、それから急に乱暴をはじめて女を虐待し、ついにブルマールを床の上に仆して口から出血させるに至った。そうして最後に、彼女を脅迫しながらおそるべき行為に出でようとしたのである。
 ブルマールは、従うと見せて、相手の隙を見てほんとうに危い所で身を以って僅かに逃れた。
 マルテに対するソレイランの行為も丁度この事件と同じような性質をもっている。
 彼はマルテをまずナイフでおどかし、沈黙をまもって彼の暴力に従う事をせまったのである。然るに
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