さい。もう眠るんだから」
若者はしずかに彼女に云った。
しかし幼いルイズの消失はその夜一晩中、そのアパートのうち中の話題になった。いやその次の日もこの話がつづけられた。そのうちに、だんだんと妙な噂が伝りはじめた。
どうもあのやくざ者の若者が怪しいというのだ。門番の女が、何でもかんでもあいつが怪しいというので、煙突掃除人夫が一人、すばやく屋根の上に上ってそっとメネルーの室を見る事にした。
屋根から下りて来ると、人夫はいきなり、
「おい、メネルーの息子の奴、何かストーブでもやすので夢中になってやがるよ」
という報告をもたらした。
この時、ツーレという婦人が、
「そう云えば、どうも五階のメネルーの部屋から、ハンマーで肉を切るような音が聞こえていたよ」
と云い出した。
一同は何とも云えぬ不安におそわれはじめたのである。
丁度此時、警察から刑事がやって来て、メネルーの戸を叩いた。はじめは中々応じなかったがとうとうしまいにメネルーは戸をひらいた。
刑事の訊問に対して、彼は不相変《あいかわらず》何も知らぬの一てんばりで押通したが丁度その時、刑事の一人が、しきりに燃えているストーブ
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