あした雨ふる
薄紅落すな
河原の撫子 ヤーイ


[#1字下げ]石の地蔵さま[#「石の地蔵さま」は大見出し]

石の地蔵さま
おら見て来たが

誰にもろたか
涎垂《よだ》れかけかけた

物は言はぬが
にいたり顔で

とかく地蔵さま
気が若い。


[#1字下げ]煙草[#「煙草」は大見出し]

丸い輪になれ
煙草のけむり

こんなときでも
来りやよいに

辛気くささよ
火鉢の中にや

燃えたマツチの
棒ばかり

こんど来たなら
煙草のけむり

顔へぱつぱと
吹いてやろ。


[#1字下げ]通り魔の唄[#「通り魔の唄」は大見出し]

恋は通り魔、
  通さにやならぬ

通しましよかよ
  通り魔を。

通り魔だから
  通すもよいが

もしやわたしに
  魔がささば。

さうよかうなりや
  人目がこわい

人目しのんで
  通さうか。

人目しのんで
  命の鍵に

ひよいと魔がさしや
  身がほろぶ。


[#1字下げ]出来事[#「出来事」は大見出し]

畑|作《さく》ろとて
畑さ出たに (ノー)

馬にけられたか
牛にふまれたか

捨てる筈アねエに
襷《たすき》もすてて (ノー)

ものもいはずに
泣いて来た

どこの馬だか
おら知らないが

おれが見てたら
しつぽなぞふつて

畑ながめて
立つてゐた


[#1字下げ]砂原[#「砂原」は大見出し]

砂原の月夜をまつに
砂原よ

砂原は月夜になれば
砂原へ

たづね来る人のありや
乙女子よ

砂原は月夜になれよ
砂原よ


[#1字下げ]梅雨空[#「梅雨空」は大見出し]

空はつゆ空
ゆふべの月よ

月もつゆ空
つゆたれる

月はゆふ月
ゆふべの星よ

星もつゆ空
つゆたれる

晴れなつゆ空
はれぬかつゆよ

月もお星も
晴れて出な


[#1字下げ]水がれ田[#「水がれ田」は大見出し]

田が涸れ 田が涸れ
水田が 涸れた

鴫《しぎ》が来て啼く
田が涸れた

涸れてくりや田も
一夜で涸れる

鴫の来ぬ間に
田が涸れた

鴫は田の鳥
鴫ア田が恋し

鴫は涸れ田で
かなしげに


[#1字下げ]小磯の蔭[#「小磯の蔭」は大見出し]
[#ここから4字下げ]
(めかり娘とすなどり男)
[#ここで字下げ終わり]

めかり娘
「来いと言ふから
     砂山越えて

 裾で小砂を
     曳きながら

すなどり男
「よく来てくれた
     砂山越えて

 裾で小砂を
     曳きながら

めかり娘
「待つと言はれりや
     裾曳きながら

 来たにや来たもの
     磯蔭じや。

すなどり男
「よく言ふてくれた
     小磯の蔭じや

 磯や小磯や
     磯蔭じや。


[#1字下げ]棉打唄[#「棉打唄」は大見出し]

丘の榎木《えのき》に
蔓葛《かつら》が萠える
鷽《うそ》が鳴くわい
酒屋の背戸《せど》で。
  びんびん棉打て
  畑の茨に
  とろとろ日が照る

裏戸覗くは
みそもじさまか
そなた思へば
五分《ごぶ》、棉打てぬ
  びんびん棉打て
  畑の茨に
  とろとろ日が照る。

浜の小砂利の
数ほど打てど
そもじ見たさに
竹で目を衝いた
  びんびん棉打て
  畑の茨に
  とろとろ日が照る


[#1字下げ]山越唄[#「山越唄」は大見出し]

おらも十六
     七八は
同じ問屋の
     駅路に
なんぼ恥かし
     のう殿ご
花のやうだと
     褒られた
殿の姿は
     駅路の
そんじさごろも
     花だわい
ちらりちらりも
     めづらしき
笠に霙《みぞれ》が
     降つて来た
山は時雨《しぐれ》だ
     のう殿ご
萱《かや》の枯穂が
     動くわい
今朝《けさ》も田甫《たんぼ》の
     田の中に
鴨が三疋
     鳴いてゐた。


[#1字下げ]棧敷の上(小曲)[#「棧敷の上(小曲)」は大見出し]

渦巻の 裕衣《ゆかた》に[#「裕衣《ゆかた》に」はママ] 淡き恋心
仇《あだ》し姿の しのばれて
涙で唄を 唄ひませう

棧敷の上に しよんぼりと
仇し姿に 咲く花を
伏目になりて唄ひませう

鳰《にほ》の浮巣の岸に咲く
ほのかに白き藻の花の
はかなき恋を 唄ひませう。


[#1字下げ]十五夜[#「十五夜」は大見出し]
[#ここから4字下げ]
(門にもたれて唄へる)
[#ここで字下げ終わり]

月は十五夜
まんまるだ
月の花暈《はながさ》
被《き》てお寝《よ》れ
お寝り下され
雁《かり》がねに
黄楊《つげ》の小櫛の
歯が鳴るわ

昨夜《ゆふべ》みたのは
夢だわい
黄楊の小櫛の
歯が落ちた
熱い涙に
ほろほろと
何故にこのよに
眼がくもる

蓼の花咲く
ふるさとの
雲に渡るは
雁《かり》の連《つれ》
門の扉
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