に
十五夜の
月が射すわい
黄楊の櫛
蓼《たで》の穂に咲く
白き花
森の庭燎《かがり》の
火は赤い
稲は刈られし
ふるさとの
堰《せき》に瑠璃《るり》鳴く
田は枯れた
雁は遙《はるか》の
雲に鳴き
秋の九月の
夜はながい
門の扉に
十五夜の
月はてらてら
何照らす。
[#1字下げ]笠岡一口唄[#「笠岡一口唄」は大見出し]
[#ここから4字下げ]
(笠岡は瀬戸内海に面した岡山県の小邑である。)
[#ここで字下げ終わり]
ここは笠岡
笠借りませうか
雨がふるから
笠貸しなさい
笠もないのに
借せ借せと
おやさうかいな
鞆《とも》で借りませうか
仙酔島《せんすゐじま》を
これが貸さりよか
この島を
おやさうかいな
[#1字下げ]速戸の芽刈り唄[#「速戸の芽刈り唄」は大見出し]
[#ここから4字下げ]
(速戸の芽刈りは門司名物の年中行事の一つである。)
[#ここで字下げ終わり]
門司の名物 速戸《はやと》の芽刈り
刈れば刈るほど芽がのびる
刈らなきやのびない
捨てときな
捨てておかりよか、速戸の芽刈り
刈らにやのびない、葉も出ない
のびなきや刈られぬ
わしや帰へる
刈りに来たのか、眺めに来たか
刈らず眺めて帰るのか
のびたらそのときや
刈りに来る
[#1字下げ]春の雀[#「春の雀」は大見出し]
ないてあそぶは
雀の鳥か
こゑが可愛や
なくこゑが
遊びほうけて
雀の鳥が
やぶのこかげで
啼くこゑが
やぶのこかげで
雀の鳥が
遊びほうけて
なくこゑが
[#1字下げ]裏の細道[#「裏の細道」は大見出し]
裏の細道
通ふて来なせ
雨のふる夜に
傘さして
傘の雫《しづく》と
小磯の浪は
ちぐたばぐたで
性《しよう》がない
[#1字下げ]雉子が啼く[#「雉子が啼く」は大見出し]
ねんねん小唄は
子守り唄
子守りの小唄に
いふことにや
山で雉子《きじ》なく
子雉子なく
木の葉をかぞへて
雉子がなく
木の実をかぞへて
雉子がなく
木の葉をかぞへて
日がくれた
日ぐれの明星は
ただひとつ
木の実をかぞへて
夜があけた
夜あけの明星も
ただひとつ
ねんねん小唄の
雉子がなく
[#1字下げ]髱《たぼ》[#「髱」は大見出し]
馬にけられたか
あの姉《あね》さまは
たぼが二尺も
垂れこけた
馬にや蹴られぬ
姉さまたぼは
牛にふまれて
垂れこけた
どこで踏まれた
あの姉さまは
裏の畑の
真ン中で
[#1字下げ]日ぐれの花[#「日ぐれの花」は大見出し]
くちなしの花の
白さよ
くちなしの花が咲いた
白い花
くちなしの花は
白い花
つゆくさの花の
青さよ
つゆくさの花が咲いた
青い花
つゆくさの花は
青い花
[#1字下げ]春告鳥[#「春告鳥」は大見出し]
梅の小枝に
春告鳥《はるつげどり》は
ホケキヨ ホケキヨと
来てとまる
ホケキヨ ホケキヨと
春告鳥が
梅の小枝で
言ふことは
風が寒くて
梅の木さへも
花が咲いたり
咲かんだり
[#1字下げ]千羽鶴[#「千羽鶴」は大見出し]
千羽鶴さへ
一羽でもかけりや
九百九十九羽
はぐれ鶴
お月さまでも
片隅かけりや
かけた片隅ヤ
真の闇
はぐれ鶴になりや
啼き啼きさわぐ
かけりやお月さんも
痩せ細る
[#1字下げ]枝垂柳[#「枝垂柳」は大見出し]
枝垂柳《しだれやなぎ》は
お化けに化けな
化けてお化けに
なつちまへな
枝垂柳に
お月さんが出たよ
細い真白い
お月さんが
細いお月さんは
三日月さんよ
出てもさつさと
ひつこんちまふ
[#1字下げ]月の提灯[#「月の提灯」は大見出し]
お空がくらいよ
月さんよ
お空に提灯
つけなさい
三日月さんさへ
山の端に
暗けりや困ろと
出てつける
お空がくらいよ
月さんよ
今夜は提灯
つけなさい
[#1字下げ]極楽とんぼ[#「極楽とんぼ」は大見出し]
わが家わすれて
極楽とんぼア
あの町この町と
飛びあるく
あの町この町と
極楽とんぼア
用もないのに
飛びあるく
[#1字下げ]鏡[#「鏡」は大見出し]
鏡見てたら
お母さんよ
おでこがうつる
おでこかくれる
お母さんよ
髪おくれ
[#1字下げ]砧[#「砧」は大見出し]
今夜来るかと
墻根《かきね》の外を
思て打つよだ
砧《きぬた》の音が
暗い墻根の
あの外を
[#1字下げ]田に居る鳥[#「田に居る鳥」は大見出し]
田にゐる鳥は
脚の長い鳥だ
脚の長い鳥は
なんと言ふ鳥だ
鷺《さぎ》の鳥ならば
脚の長い筈だ
鴫《しぎ》の鳥ならば
脚の長い筈だ。
前へ
次へ
全5ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
野口 雨情 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング