[#「生姜畑」は中見出し]

枯れ山の
芒《すすき》ア穂に出てちらつくが
赤い畑の唐辛《たうがらし》

帯にしめよか
襷《たすき》にしよか
どうせ畑の唐辛

石を投げたら
二つに割れた
石は磧《かはら》で光つてる

安《やす》が女房《にようぼ》の連ツ子は
しよなりしよなりと
もう光る

生姜畑の
闇の晩
背戸へ出て来て光つてる。


[#1字下げ]風が吹く[#「風が吹く」は中見出し]

己《おれ》が家の
うしろの沼に風が吹く
実にしみじみ
風が吹く
見れば見るほど
風が吹く

山の方から
風が吹く
広い河原の
砂利石に
風は鳴り鳴り
吹いて来る

己が生れた
この村の
井戸の釣瓶《つるべ》に
風が吹く
風は鳴り鳴り
吹いて来る。


[#1字下げ]篠藪[#「篠藪」は中見出し]

蝸虫《ででむし》よ
黙り腐つた
蝸虫よ
渦を巻いてる蝸虫よ
何が恋しい
篠籔に
さらさら さらと雨が降る

夢現《ゆめうつつ》に
己《おれ》は暮らした
蝸虫よ
己に悲しいコスモスの
花と花とに雨が降る

もう己の
家は最終《をはり》だ
蝸虫よ
田もいらぬ
畑もいらぬ
篠籔に
さらさら さらと雨が降る。


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