》を掘つてゐると
馬を牽いた男が
弄戯《からか》つて通つてゆく

お霜が土手に足を出して休んでゐると
前《さき》の男が馬を牽いて帰つて来た
また弄戯つて通つてゆく

お霜がもう帰らうとすると
藪の中に
男は首を出してゐた

[#2字下げ]留さん[#「留さん」は中見出し]

東京で流行《はや》る――サイノロジーと云ふ
田舎にはない新言葉
西洋の煙草の名でもあるか知らと
留さんは思つてゐた

留さんが田うなひに出て行つた後《あと》で
頬の赤い嬶《かかあ》が長々と昼寝をしてゐる
ボーリン衝きの若い監督は
サイノロジーと云つて笑つて行く

留さんは解《げ》せずで解せずで堪らない
その晩、夕飯を喰ひながら嬶に咄した
嬶は飴菓子を噛りながら
これも解せずで――首を抂《ま》げた

[#2字下げ]お艶[#「お艶」は中見出し]

お艶《つや》が風呂にはいつてゐると
若い男が
だましに来た
小さな声でだましてゐる

お艶がざぶり湯をかけてやると
男はうろうろしてゐたが
裏から
すーつと逃げて行つた

馬は厩《うまや》に
馬堰棒《ませんぼ》を
がらんがらんと鳴らしてゐる
天の川は北から西へ流れてゐた

[#
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