蝙蝠が来たなら
跣足《はだし》になつて追つ蒐《か》けろ
[#1字下げ]縁側[#「縁側」は大見出し]
彼はお針をしてゐる妻君に
爪の伸びた手を出して
鋏を借せと云つた
鋏は妻君の膝のあたりにある
若い妻君は
彼の手を眺めるやうに見て
笑ひながら
鋏をとつて渡した
彼は日の当つてゐる縁側に胡座《あぐら》をかいて
パチリパチリ切り初めた
爪は遠くまで飛んで
皆んな庭の上に落ちる
妻君はそーつと彼の後《うしろ》に来て
顔を覘いてゐた
彼は爪の奇麗になつた手を出して見せた
若い妻君は黙つて立つて笑つてゐる
[#1字下げ]わしの隣人[#「わしの隣人」は大見出し]
[#2字下げ]彦兵衛[#「彦兵衛」は中見出し]
彦兵衛が、家の前の畑に
蘿蔔《だいこん》の種を蒔いてゐると
郵便配達が来た
彦兵衛は汚れた手で
葉書を受け取つて眺めてゐる
配達は行つて了つた
電車の車掌に及第した
東京の忰からの葉書だ
彦兵衛の顔はにこにこした
囲爐裡《いろり》の中に
麦鍋が
泡《あぶく》立つて煮え零《こぼ》れてる
[#2字下げ]お霜[#「お霜」は中見出し]
お霜が畠に馬鈴薯《じやがたらいも
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