唐辛《たうがらし》
石を投げたら二つに割れた
石は磧《かはら》で
光つてる
安《やす》が嬶《かかあ》の連ツ子は
しよなりしよなりと
もう光る
生姜畑の闇の晩
背戸へ出て来て
光つてる
[#1字下げ]酒場の前[#「酒場の前」は大見出し]
特殊部落の――若い娘のお喜乃《きの》
少《ちつ》とも人ずれしないほんたうに美《い》い綺縹のお喜乃
先刻《さつき》からぼんやり、酒場の前に立つてゐる
お喜乃よ
もう晩方だ、家《うち》へ帰つたら良《い》いではないか
酒場の暖簾《のれん》から年配の男が首を出して云つた
アイ、帰るよ、だがな伯父さん
権さん今日は来なかつたか
年配の男は権と同じ工場の古参《ふるひ》職工だ
黄昏《たそがれ》の風に吹かれて職工の群は帰つてゆく。
権か、来ない、来ない
ありやあなア、お喜乃よ、権はもう大坂[#「大坂」に「(ママ)」の注記]へ帰るんぢや
知らん、知らん、そなことない
伯父さん、お前嘘だらう
お喜乃は暖簾の傍へ寄つて来た
おぬしに、嘘云つてどうする
お喜乃よ、権はなア、工場から暇が出たんだ
お喜乃はすり寄つて年配の男の顔を見凝《みつ》めた
伯父さん、
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