んで一人で泣いた
西風が稲の上に毎日吹いた
丁爺は己の家の庭へ来て
いつも悲しい顔で立つて眺めてゐた
己は丁爺に
古くから己の家にあつた紫檀の蓋の湯呑を与《や》つた
『お前さまの形見でがな――』
丁爺も己も一所に泣いた
百姓はうれしさうに馬を牽いて歩いてゐる
己に楽みのない収穫の秋がたうとう来た
己は朝の未《まあ》だ薄暗い内に
ズツクの鞄を抱《かか》ひて汽車に乗つた
腰の屈《かが》んだ丁爺は改札口の欄干《てすり》に伸び上り伸び上り
『お前さま、御無事で暮らして下せえ』と己に云つて泣いてゐた
[#2字下げ]八 頬白[#「八 頬白」は中見出し]
己が野へ行くたび
藪の上にとまつて鳴いてゐた
頬白よ
己はお前のことをほんたうに懐しく思ふ
己はこの村に家も屋敷もなくなつて了つた
己は東京の友達を便《たよ》つてゆく
今日は別れだ
頬白よ
お前は達者でゐて呉れよ
己は東京から
二度この村へ帰つて来られるかどうか
今のところでは解らない
帰つて来ないとしても
お前はいつまでも達者でゐて呉れよ
己が東京へ行つて
何処に住むようになるか未だ解らない
本郷に住んでも浅草に住んでも
この村のこ
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