方から風が吹く
広い河原の
砂利《ざり》石に
風は鳴り鳴り吹いて来る
己が生れたこの村の
井戸の釣瓶に
風が吹く
風は鳴り鳴り吹いてゐる
[#2字下げ]七 丁爺[#「七 丁爺」は中見出し]
己は少年の頃
穀倉《こくぐら》の廂へあがつて雀の巣を毀したことを覚えてゐる
巣を毀された親雀は、日が暮れて了つても廂の上にとまつてゐたことも覚えてゐる
穀倉は田を売つて了つた同じ年に己が売つて了つた
穀倉の跡には青い蓬《よもぎ》が生えてゐる
己は庭へ出て見るたび熱い涙が胸にこみあげて来た
己は門の屋根の銅《あかがね》を剥して売らうと考へた
己は靴を穿いて古金屋《ふるがねや》のある町の方へ出掛けて行つた
途中で丁爺に遭つた
己は仕方なくて銅の話をした
『お前さまの親御に御恩は返えせねえから、せめて――お前さまのお家でも繁昌させてえと――鎮守様にも御願をたててゐるでがす――』
丁爺は悲しい顔をして己の顔を見てゐた
己もほんたうに悲しくなつた
己は古金屋へ行かずに帰つて来た
己は庭木を売らうと思つて植木屋をよんで来た
丁爺が来た
丁爺の目には涙が一杯に浮んでゐた
己は堪らなくなつて家の中に駈け込
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