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鶏《かしは》が走つた
こりやまた事かと魂消《たまげ》払つて居りやあした
蜻蛉《あけづ》が一匹
追つかけ廻つた、啄《つつ》くわ啄くわ
ぶつ飛びあがつた、飛んだわ飛んだわ
蜻蛉は御運《ごうん》でござりあした
地主様の一人娘が
娘に二種《ふたいろ》何処《どこ》にごわせう
どどの詰りが
エヘン
孕み女になりやあした
畑ン中の豆ン花|何《ど》なもんだ
朝つぱらから何事ぶたずに
べろりと咲いてござりやあす
[#1字下げ]山火事[#「山火事」は大見出し]
野兎の子と雉《きぢ》の子と住んでる山が山火事だ
早く逃げぬか
焼け死ぬぞ
先刻《さつき》鳴き鳴き雉の子は
飛んで逃げた
野兎の子はどうした
山の上に走り腐つて逃げたのが
野兎の子でなかつたか
あれは宿なしの山|鼬《いたち》だ
鼬だと鼻ン先が黒い筈だ
黒いとも、黒いとも
真黒だ
駈けてつて見ろ
山一面に火の海だ
逃げ道がなくなる
野兎の子はどうした
山に居るのか居ないのか
息を切つて逃げて来た
何方《どつち》の方へ逃げてつた
雉の子が飛んでつた山の方へ
夢中になつて走つたぞ
[#1字下げ]己の家[#「己の家」は大見出し]
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