、おきいちやんのことを思ふのでした。
今日もお宮の境内から見てゐると、珍らしく大きな虹が湖の上へ出てゐました。それが丁度向ふの村から、こつちの村へ橋をかけたやうに出てゐました。村の子供達は、湖の岸へ立つて虹の唄を謡《うた》つてゐるのも聞えました。
おたあちやんは、はじめは、ただうつとりと見とれてゐましたが、だんだん見てゐるうちに悲しくなつて来ました。それは、まだ二人が仲よしで遊んでゐた、ある夏の夕方、大きな大きな虹が出ました。その時おきいちやんは何にかに憑れたやうな調子で、しみじみ話しました。
『虹の橋の上には、きつと天の御殿があるのよ、そして、そこには綺麗な花が沢山咲いてゐると思ふわ。わたし死んだら天の御殿へゆくの、おたあちやんもおいでよねえ、わたし死ぬとき大きな虹の橋が出てくれればいいと思ふわ』
『わたしも一緒に行くわよ』
『さう』と云つておきいちやんは、どうしたことか、ほろほろと涙を落したことがありました。
虹はいつまで見てゐても消えませんでした。おたあちやんは、ぢツとしてはゐられなく悲しくなつて来て、急いでお宮の石段を下りて家《うち》へ帰りました。
家へ帰る途々《みちみ
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