くる日も、おきいちやんは遊びに来ませんでした。
 お母さんは『喧嘩したんだらう』と幾度訊いても、そのたんびおたあちやんは、頭を横に振つてゐるばかりでした。
 そのうちに、おきいちやんが病気で寝てゐると云ふことを近所の人から聞きました。
 おたあちやんのお母さんは『見舞にいつておいで』と云つても、おたあちやんは、いつも気のない返事をして、却々《なかなか》行きさうにもしませんでした。
 おたあちやんは、今は、あの日のことが沁《し》み沁《じ》み後悔されて『悪いことをした』と心で思ふやうになりました。それがだんだん嵩[#「嵩」は底本では「蒿」]《たかま》つて来て濁つてゐたおたあちやんの心は、一日一日と澄んで来るやうになりました。おたあちやんは、三又|土筆《つくし》のことをお母さんに話して了《しまほ》ふかと思ひましたが、それでは却つてお母さんに心配をかけるだらうと、一人で胸をいためて居りました。
 幾日かたつうちに春もすぎて、夏が来ました。今年も湖の上に虹の橋のかかる頃となりました。

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今年も虹は
湖《こすゐ》の上さ
太鼓橋かけた

去年も虹は
湖の上さ
太鼓橋かけた


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