を失つたやうになりました。だつてこんなことは永い間に一度もなかつたんですもの。
おたあちやんは
『わたしも探さう』と云つて、おきいちやんの前に立つてずんずんゆきました。おきいちやんは、おどおどしながら後からついてゆきました。おたあちやんは、いくら探しても三又土筆は見つかりませんでした。
そのうちに日は、とつぷり暮れて了ひましたが、おたあちやんは帰らうとはしませんでした。
『おたあちやん、また明日来て探さない』
とおきいちやんが云ひましたが、返事もしませんでした。
もう四辺《あたり》が薄暗くなつて、土筆も草も見分けがつかなくなりました。
おたあちやんが、口惜さに泣きたくなるのを耐へてゐる様子を見ますと、おきいちやんは言葉がかけられませんでした。おたあちやんは、三又|土筆《つくし》が自分に見つからないで、おきいちやんに見つかつたことが口惜くて口惜くて、友達も仲よしもなくなつて了つたのでした。
二人は、物も云はずに、薄暗くなつた堤《どて》の上を、とぼとぼと歩いて元来た途《みち》の方へ帰りました。
おきいちやんは、もう嬉しくもなんともなくなつて、却つて三又土筆なんか見つけたことを後
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