りを
出しただろ


[#1字下げ]沙の数[#「沙の数」は中見出し]

汐がれ浜で聞く唄は
みんな悲しい
唄ばかり

沙の数ほどかぞへても
別れた人は
帰らない

涙ぐましくなつて来て
泣かずに 泣かずに
ゐられよか


[#1字下げ]夜さり唄[#「夜さり唄」は中見出し]

駄目ぢや 駄目ぢやと
話も聞かず
話どころか 姉上さまよ

歳も 歳だし
何うした ものぢや

男振りでも
よければ よかろ


[#1字下げ]君が名[#「君が名」は中見出し]

『別れ』と云ふ字がかなしくて
火鉢の中に 書いて消し
消しては書いて
泣きました

『消して書いても
過ぎし日の
今ははかない
空だのみ』

『口に甘いは
いつはりの
人の言葉と
露しらず』

『処女のほこりも たはむれの
幻《まぼろし》よりも
淡かりし』

かなしきままに 君が名を
火鉢の中にいくたびも
書いて 眺めて
泣きました


[#1字下げ]菖蒲の花[#「菖蒲の花」は中見出し]

菖蒲《あやめ》の花に
初夏の
君の姿が偲ばれる

君の姿は
初夏の
咲いた菖蒲の花でした

厩《うまや》の背戸に
しよんぼりと
咲いた菖蒲の花でした

前へ 次へ
全23ページ中17ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
野口 雨情 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング